08/10/07(243)
Column 「ちょっとマテフロ」
日本でも遂に開始! 新刊書へRFIDタギング
その1/小学館・昭和図書の挑戦はこうして始まる
欧州紀行は前回で打ち止めとし、今回からは日本でもいよいよ実行段階に入る、出
版物へのRFID実導入開始の最新情報を。先述オランダの取組をお手本に、小学館・
昭和図書が10万部超の新刊にタギング出荷を決めたのです‥‥。
*
わが国出版業界では、月刊「マテリアルフロー」がずっとレポートしてきた通り、この5
年にわたってRFID導入の可能性を追って実証実験を続けてきました。経済産業省の
事業としても採択され、製本時のタグ埋め込みから、流通・物流工程での入出荷検品
や棚卸、取次と書店での在庫情報共有化などサプライチェーン管理高度化、店頭で
の販売支援やマーケティング情報の取得、さらに返品の廃棄処分での環境への負荷
検証に至るまで、出版物の全ライフサイクルをカバーする本格的な検証が行われてい
ます。
それらもそろそろ一段落着いた感があり、しかもオランダでは前回までに紹介した
通り、すでに導入実践で相当の効果が実証されつつある。ならば、あとは「誰が・い
つ・どこで」実行するか、の問題になっていたとも言えます。
そこで動き出したのが、当初から中心者の1人として実証実験を牽引してきた、昭和
図書(小学館の物流部門を担当)の大竹靖夫社長でした。小学館の相賀社長の賛同
を得て、この秋の新刊「ホームメディカ 家庭医学大事典」(11月18日発売)に全冊タギ
ング出荷することを決定。現在一般的な(書店から取次・出版社への)「返品自由」の
委託販売制と、マージンを高め「買取」に近い形にした責任販売制という、複数の取引
条件を同じタイトルの本に同時に適用可能とすることが、直接の目的です。
マテリアルフロー10月号では、改めて同社長への単独インタビューを実施、その真の
狙いと業界の置かれた市場環境など背景、今後の展望までを詳しく聞きました。
米国・欧州と海外のRFID情報ばかりでなく、わが足下の産業界も負けずに前進してい
ることを紹介しなければ、片手落ち。何しろ、オープンなサプライチェーン工程への
RFID実導入は、「日本で初めて」の快挙になるのです。今回から本インタビューの内
容を再構成し解説を加えつつ、その勘所をお伝えすることにします。
* *
もちろん筆者自身が大竹社長にインタビューしました。これまで何度もお会いし実験
の話は聞いてきたのですが、今回は原点に戻って、大竹社長がRFIDの可能性に気付
き、導入へのチャレンジを開始したそのきっかけから、改めて聞いていくことにしまし
た。
「一番のきっかけは、私が小学館の営業責任者だった時代に、責任販売制という新
しい販売方式に挑んだことです」と同社長は振り返ります。
わが国出版業界では周知の通り、出版社が決めた定価で小売が販売する「再販売制
度」が根付き、返品は原則自由の「委託販売制」の取引条件が一般化しています。返
品を認めない代わりに書店のマージンを上げる「売切り・買切り」方式は、限定的に行
われていたに過ぎません。
あとで詳しく述べるように、「返品自由」は多数の本を書店の棚に並べるためには確
かに有効に機能していますが、そのため売れずに出版社に戻ってくる返品の量が膨
大なものになり、さすがに近年は「このムダを何とかしなければ」という危機感が、出
版業界の共通認識になりつつありました。
それでも返品を全く認めないのでは、書店側もリスクが高く売りづらい。しかしちゃん
と売るなら、買切りに近い条件でもマージンが高い方が、書店にとっては魅力。そこで
マージンを上げて書店に責任を持って売ってもらいつつ、ペナルティは課すが返品も
可能にした「責任販売制」という方式を、大竹社長は取り入れることにしたのです。
99年からこの方式で2年間に続けて6本、平均16万2,000部を出版したところ、15万
6,000部と96.3%が売れ、返品はわずか6,000部という好成績を残しました。
「書店のマージンは通常20%のところ、責任販売制ではマージンを35%としたので、初
年度は勢いで売れたんです。ところが、返品には35%のペナルティを課し、仕切り価格
65% で仕入れた本を返品時は30%で引き取るルールとしたので、それが怖さに次年度
からはガクンと注文が来なくなってしまいました」(同)
* * *
それなら、途中で取引条件を委託制に替えて返品自由にしようとしても、書籍に
バーコードでソースマーキングされている1つのISBNコードでは、返品で戻ってきた同
じタイトルの本を、以前の責任販売の在庫と区別することができません。かと言って、
コードを変えるために本を大改定するのも、本末転倒。
「何とかならないものか」
……大竹社長は考えました。しばらくするうちに、ISBNコードやJANコードを入れるだ
けでなく、シリアルナンバーを持ち同じ本でも1冊1冊を別々に認識できる、RFIDという
新技術があることを、「マテリアルフロー」誌などで知るようになります。ちょうど小学館
の物流部門・昭和図書の担当を兼任するようになった同氏は、「よし、これを研究しよ
う」と決めたのでした。
(次回につづく)
月刊マテリアルフロー 編集長
菊田一郎
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