流通研究社の物流ポータルサイト□□Logistics System Station□□

WWW を検索 LSSサイト内を検索
TOP > コラム > 日本でも遂に開始! 新刊書へRFIDタギング(5)



08/11/04(247)

Column 「ちょっとマテフロ」

日本でも遂に開始! 新刊書へRFIDタギング

その5(補足)/プライバシー問題について再び

 

 小学館・昭和図書のRFIDタギング新刊が間もなく発刊されますが、先般1枚のファック

スが編集部に届きました。差出人は出版流通対策協議会、「電子タグ装着にあたって、

出版界がふまえるべきこと」という「見解」でした。





 実際にRFタグを貼付した小学館の新刊「ホームメディカ 新版・家庭医学大辞典」はこ

の11月18日発売予定で、店頭販売開始とともに、消費者の手元にいよいよタグ付き書

籍が流通を始めることになります。

 わが月刊「マテリアルフロー」10月号インタビューで紹介した昭和図書・大竹社長の思

いと計画の概要は、前回までに紹介を終わったのですが、一時注目されたプライバ

シー保護の問題については、今回は問題に配慮しすぐ剥がせるシールタグが使われる

ので剥がせば済むことと考え、特別には触れませんでした。

 しかし出版流通対策協議会(以下、流対協)の「見解」は、数年来日本出版インフラセ

ンター(JPO)を中心に進められてきたRFID実験と、今回の小学館・昭和図書の実行開

始に向けて、主にプライバシー問題についての危惧をテーマにした内容になっていま

す。
 
 本誌・本コラムがタギング推進の立場でこれらの動きを報道しているので、わざわざ

「見解」を送ってくれたもののようです。この問題には無視できないセンシティブな論点も

あり、本コラムの立場で、シリーズの補足編としてご紹介することにしました。

 なお流対協は1978年末、公正取引委員会の橋口委員長が「本の再販制廃止」発言を

したことに反対の意思表示をした出版社80社によって、1979年1月に結成。今日まで①

出版再販制度の擁護、②差別取引の解消、③小規模出版の流通確保、という三つの

活動方針を掲げ、小規模出版社の活路を求めて活動を展開してきた、と協議会のホー

ムページhttp://ryuutai.com/に紹介されています。

 「見解」の内容も上のトップページですぐご覧になれますが、簡単に要旨を整理しつ

つ、コメントしていきたいと思います。



*           *


■見解/電子タグ装着にあたって、出版界がふまえるべきこと(08年10月23日付)■

(1)電子タグが、読者まで渡ることの意味

電子タグが読者まで渡ると、タグのデータが「予期せざる他者」に漏れる可能性があ

る。タグには基本的な書誌情報しか入っていないから、特定の個人と結びつくことはな

いと主張するのは無定見。実際の利用では、会員番号、クレジットカード、あるいはスイ

カ、お財布携帯など、様々な特定可能なひもつきデータとなっていくのが実際。

……タグ付きのままであれば書誌情報漏洩の可能性があることは確かです。しかし後

半はどういう意味なのかな。会員番号やクレジットカード情報はレジの読み取り機など

から盗むほかなく、それを本の情報と結び付けるのは、悪意を持ってしても外部RFID

リーダライタだけでは無理。それは別種の犯罪であり、両者が混同されていなければ良

いのですが。


(2)電子タグを最終消費者に渡すためには「社会的利益」が必要

「電子タグに関するプライバシー保護ガイドライン」(2004年6月8日/総務省、経済産業

省)の記述を引いて遵守を求めたもの。タグ付き本には前記の危険があるのだからタ

ギングするなら「電子タグの装着を視野に入れている出版社は、タグ装着によって、消

費者(読者)にはどんな利益があるのか、社会的にどうして必要なのかを、書籍を購入

する人々に、あらかじめあきらかにする必要がある」

……その通りと思います。これついては⑥項で。


(3)保護ガイドライン」を守ることは、最低限の基準

最近の電子タグには様々な「情報保護機能」があると言っても、絶対に読まれないと保

証するものではないから「安全」と主張することはかえって危険。「電子タグ装着」との表

示だけでは、読者の選択権を認めていることにはならない。「電子タグ装着のままでい

いのか、取り外してほしいのか、読者が判断できる理由が、電子タグ書籍には、明示さ

れていなければならない」。

……これも仰る通りと思います。今回の小学館の新刊タギングでは、剥がせるシールタ

グになっているので、とにかく「タグを剥がす」ことで無線読み取られ被害の危険性を排

除できることを、十分認知することが必要でしょう。この意味では、前シリーズで紹介し

た全冊タギング実施中のオランダの書店では、精算時にもれなくタグを読み書き不能

にする「キルタグ」処理を施し、「剥がす」手間も省いているのが見本になるでしょう。


(4)書籍(本)という商品の持つ特殊性の自覚

「書籍を選択し、購入するという行為は、その人の思想、性癖、趣味など全人格を濃密

に表わすもの…図書館での貸し出し履歴も同様」。「他の商品に、電子タグを装着する

ということと、書籍に電子タグを装着するということの違いについて、我々は鈍感であっ

てはならない」。

……毎週図書館に通う者として、筆者も切実にそう思います。少しでも漏洩の可能性が

あるのなら、「電子タグには、個人情報は含まれないから、装着した責任はないのだと、

言い張ることはできない」というのも、ごもっとも。


(5)電子タグは書店での万引き防止に効果があると主張することについて

タギングコストは当面供給側の負担とはいえ、「そのコストを支払うのは最終的には読

者」だから「万引きの抑止効果はあるかもしれない」が「それを声高に主張することに

よって、全国の書店の切実な願いとは裏腹に、読者の反撥を受けてしまうことを危惧す

る」との主張。

……前回までにご紹介したように、「ムダな返品の削減」を旗に掲げた小学館・昭和図

書のチャレンジは、この論旨に則ったものと思います。欧米でも最近は「万引抑止」を

ほとんど口にしなくなったのは、同じ理由によるのかも知れません。ただし消費者の心

証を害するからと言ってあえて隠す必要はなく、その効果は事実として認識されるべき

と筆者は考えます。


(6)電子タグを考える基本

「新しい技術を導入する時には、利便性と安全性のバランスをどう考えていくかという 

問題に常に直面する。しかし、電子タグ導入の議論において、その前提になるべき読

者の利便性が果たして、提案されているのだろうか」

……注文・売れ行きに応じた生産・流通を目指すサプライチェーン・マネジメントでムダ

な返品・廃棄を削減し、出版供給側が適正な利益を確保し、未曾有の出版不況時代に

健全な経営を勝ち取り、健全な出版業に邁進することは、そのまま読者の利益になる

ものと信じます。ただし中小零細出版社がタギングコストとリーダライタ費用負担を今後

強いられることがあるとしたら、弊社もその1社として、検討を要するなと思っています。


*         *         *


 筆者は不見識にもこの団体の活動を今まで知らず、ファックスを一見したときはどの

筋かと少々身を引いたのですが、聞いてみるとタギング推進グループとも日常的に意

見交換をしているとの由。何か新しいことを始めるにはこうしたあらゆる立場からの危

惧にも丁寧に答え、理解を求めていくことが不可欠と、認識を新たにしました。


(シリーズ正式に終わり)







 




月刊マテリアルフロー 編集長

菊田一郎



 

 


バックナンバー

>>最新号 >>2008年 >>2007年

ご意見・ご感想

ご意見・ご感想はこちらからお願いいたします。

お問い合わせ