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09/03/03(263)

Column 「ちょっとマテフロ」

物流に“活”入れるトヨタ生産方式

その2/日本郵便のJPS導入成果と「ザ・ゴール」



  では月刊「マテリアルフロー」で日本郵便、イトーヨーカ堂など物流現場でのJPS/TPS

導入成功事例を取材して回った結果を、順に総括してみたいと思います。これによって

日本の物流現場の姿が大きく変わりつつあることは間違いありません。







 まず、日本郵便(郵便事業株式会社)がTPSに学び、これを「ジャパン・ポスト・システ

ム(JPS)」として自家薬籠中のものへと消化し、全国に浸透・定着を進めてきた経過に

ついては、1月の本コラムで紹介しました。

その後、続くマテリアルフロー2月号では「特集//日本郵便・JPS導入の真実」として、

これまで「お役所体質ではTPS導入は無理」といった批判的な報道を除いてマスコミで

詳しく紹介されることのなかった、5年間の取組み成果をまとめてレポートしています。

その総指揮者である同社松本執行役員(JPS推進本部長)へのインタビューと、社内で

もJPS導入でトップクラスの成果を生み出した三郷支店(埼玉県)、松山西支店(愛媛県)

の現場取材を終え、膨大な資料と格闘しながら記事を書いてみて、感じたことがいくつ

かあります。

1つは、同社の豊富な人材とその能力を活かし切ることで、初めてここまで徹底した改

善が実現できたのだ、ということです。レポートで引用させてもらった多数の資料(それ

でも全体のほんの一部)からも推察されると思いますが、現状分析や計画値の綿密な

数値統計、要因分析の解析図、教育資料等々、見事なデータが作成され、揃ってい

る。

現在の作業状況・生産性を、ある「基準」に基づいて数値化することは、「異常の見える

化」と並ぶ「見える化」の最大のテーマ。これがなければ、「現状」を認識することも、改

善されたかどうかを測ることもできません。


*             *


 ただし、これには手間がかかります。まず「基準」の設定。人時当たりの生産性が基

本でしょうが、これだけだとつかみどころが少々薄い。JPSの凄いところは、15分単位

の「作業原単位」をすべての基本に置いたこと。区分でも集配でも営業でも、「15分にな

すべき標準的な作業量」を作業ごとに定め、これを「共通の1単位」にして、数値化・比

較・計画ができるようにしたことです。

その基礎となるのが計測と検証。ストップウォッチを持って作業者を追い回す作業を、

すべての改善対象工程で改善前・改善後に行い、さらにそれが適切か検証する必要が

あります。

そして集計・加工。拠点によっては日々集まる個人別データだけでも数万オーダーにな

るのでしょうが、日本郵便では高価なソフトウェアなど何も使わず、エクセルベースで集

計し続けている。しかも過去数年間のデータ積み上げや加工、それによる今年・明日の

郵便取扱量の予測値まで、同様にして弾き出し活用しています。

加えて言えば、周知・教育。本社レベルで作成する広報・教育資料「JPSアップ100」、そ

れに習って松山西支店が独自に発行している「JPSアップ松山西」など、図解・写真中

心で誰にも分かりやすく改善ポイントや成果をまとめた配布資料を、月刊~隔月刊で編

集・発行する取組み。

これらを支えたのが、優れた人材群。現場取材とリーダーの話で分かったのは、男性

正社員は当然とし、実はその中で女性社員、さらに女性非正規社員の活躍が目覚まし

いということ。これはJPS運動がどこまで現場に浸透し、「本物の現場力」になっている

かを測るメジャーになるでしょう。



*             *             *


 これだけのことを、日本郵便のように全国拠点で徹底してできる組織はいま、日本広

しといえども多くない、と筆者は想像します。逆にいえば多くの民間企業にはそこまでの

余裕がなく、日本郵便は当初、それだけの余裕人員を保持していた。潜在能力も高

かった。しかし民間との厳しい競争に勝ち残るためスリム化が求められ、その民営化プ

ロセスと同時並行でJPS運動を展開したことで、省人化により生み出した人員をJPS専

任担当員などとして活用することが可能だったわけです。

だからこそこれだけの手間・能力を要する改善ができた。同時に、現場作業人員の省

人化は進行している。現在は改善要員を別に保有しているものの、長期的には改善自

体を日常業務に織り込み、民間並みの筋肉質な物流企業に生まれ変わっていくベース

ができたのではないでしょうか。


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 ただし余剰人員を即減らさない分、改善成果の出方は控えめになります。マテリアル

フロー読者からの反響には、日本郵便が「省人化で生み出した余剰人員の雇用調整

を、(派遣切りなどに走らず)採用抑制など長期的な対応にとどめているのは1つの見

識」と書いた筆者の見解に対し、「現実はそんなに甘くない」との指摘もありました。我が

足下を含め、それには一理あります。

しかしすべての企業が「人」までJIT方式で調達・調節し、「今不要な在庫は置かない」、

つまり余剰人員は即解雇、必要なときだけ即雇う、などという無定見な行動を取り始め

たら世の中はどうなるのか。労使の信頼関係は成立するのか。厳しい時、力のある集

団は経営者が命がけで雇用を守るべきではないのか。


「ザ・ゴール」シリーズが今も快調なエリヤフ・ゴールドラット氏に、筆者が数年前の来

日時にインタビューしたとき、こんなことを言っていました。

「私が心配しているのは、日本産業界になお残されていた貴重なアドバンテージの源泉

である、従業員を容易に解雇しないという文化、終身雇用の制度が、米国流レイオフの

考え方に影響されて、今や崩壊の瀬戸際に立たされているように見えることです」

「組織の側から雇用を守るというロイヤルティを与えなければ、従業員から忠誠という見

返りを得ることはできません。…マネジメントの第一の基本は、人と人との信頼関係を

築くこと。これは『ザ・ゴール』の大きなテーマでもあります」(マテリアルフロー、2002年1

月号)

耳が痛いとはこのことです。しかしその直言を、私たちはいまもう一度かみしめ、

再出発すべきではないでしょうか。

次回はヨーカ堂の流通・物流現場改善について述べることにします。



(次回につづく)










 




月刊マテリアルフロー 編集長

菊田一郎



 

 


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