東大ものづくり経営研究センター所長・藤本隆宏教授にきく「TPSと郵便現場改善」編
の最後は、いよいよ自動車生産と郵便現場に通じ合う、「統合型ものづくり」のフィロソ
フィーの話へと、大きく展開していきます(聞き手は筆者)。
*
——まさにTPSで言う見える化の原点は「異常,問題の見える化」であったことが,
ご指摘(何か問題が起こった時にチームの実力が分かる)を傍証するものだと思いま
す。
[藤本] (中略)郵便の区分や集配は固有技術で,自動車の組立とは全く別物です。
郵便の現場でもTPSのように独自の用語が「鮨屋の符牒」のように伝統的にあり,現
場は誇りを持って働いています。(中略)
ただし郵便は私たちが勝手に出すもので,入荷数量を郵便局が自分でコントロール
することはできません。トヨタのようなプル方式の平準化はできない。
これにはまとめて出すほど料金が安くなるという料金体系の影響もある。本当なら「平
準化して出せば安くなる」料金にできればいいのですがね。現実には都心などからの
入荷が大量に集中することが多く,それによって全体の処理コストは上がってしまう。
平準化が不可能なら自動車型のTPSは入れられません。
それでもある種のTPSが異業種に導入できるのは,抽象度の高いフィロソフィー,生
産思想のレベルで導入しているからなのです。自動車生産とは違うが,根っこは一緒
である,ということ。これを私は「統合型ものづくり思想」ととらえています。
自動車という1トンの製品を扱い,秒単位のタクトを決めてコンベヤで流すという特殊
性。その特殊性を捨象してより一般的な生産思想としてとらえた時,家電でも郵便で
も,流通など他のサービス業でも,あるいは京都の花街でも,共通化して使えるところ
が立ち現れる。
「固有技術にこだわらず,システム理解の抽象度を上げること」で,適用範囲が広が
るのです。歩いて作業対象を探すなどの付帯作業と不要なムダ作業を減らして,付加
価値を生む正味作業時間を増やす考え方も,様々な分野に展開できるものですね。
それを日本郵便は「作業原単位」から入り,生産性意識を導入した。これが決定的な
ポイントであり,大いに応用範囲を拡大していけるでしょう。
不定量がバラバラに入ってくる郵便物をそのまま処理するのでは,どれだけ時間が
かかるか分からない。そこで1工程増えても入口での原単位作りから始め,整流化す
ることで後工程全体の流れがスムーズになる。工数の見える化ができる。
1通当たりでなく,15分でどれだけできるかを全ての作業で決め,15分が現場の脈
動,リズムになって体内時計みたいに働く。遅れそうな人がどこに発生するか事前に
予測可能になる……意識の大転換です。(中略)
——郵便事業の現場作業改善について,残る課題やテーマがあるとすれば,どんな
点でしょうか。
[藤本] (中略)たとえばGPSや,RFIDとの連携です。これらの技術により誰がどこで何
をやっているか,どの郵便物が今どこにある,どこまで来ているかが分かるようになっ
たとすれば…。
今日届くはずの書留を,家で朝から待っている人がいたとします。1日待ち続けて結
局,美容院に行けなかった,などとならないように,受取人が急ぐ時は「今届いている
ポイントまで,こちらから取りに行く」ことができるようにならないか。
もちろん本人の証明やセキュリティを担保する仕組みは必要ですが,本局まで行け
ば受け取れる,あるいは昼休みに止まっているトラックで渡してくれるとか。現場には
力が付いたのだから,このように「顧客の利便性」を高める視点から,大きな郵便の流
れ全体をさらに良くして新しいビジネスモデルを提案することも可能ではないでしょう
か。
宅配便業界では時間指定サービスをすでに実施しています。お宅のポストに入れて
終わりではなく,家で待っている顧客の視点から見たサービス,顧客が封を開けて中
身を見て喜ぶところまで視野に入れた大きな流れで考える。
TPSと根っこは一緒のJPSにも,もの作りの原点である「良い設計・良い流れで顧客
を喜ばせる仕組みの構築」という思想は,同じように流していけるはずです。作業原単
位の発想で生産性・流れの見える化を実現した。しかし今のところ,それが郵便局から
見た作業改善で終わっている。逆に,そこに今後の可能性があるように思います。
(記事全編はマテリアルフロー・09年6月号に掲載されています/次回につづく)